御曹司との交際0日婚なんて、聞いてません!──10年の恋に疲れた私が、突然プロポーズされました
一瞬、焦ったように心が跳ねたけれど、どうしても素直に返さないといけない空気になっていた。

「……私も、今はいません。」

「よかった。」

そう呟いた彼の表情は冗談めいていて、でもどこかほっとしたような気配も混じっていた。

そのまま、彼は机の上に置いてあった資料を手に取り、隣のソファへと軽やかに歩いて行く。

そして、何事もなかったかのようにふっと笑いながら言った。

「じゃあ、話を変えましょうか。」

──でも、それは“仕事”の話ではなかった。

「結婚について、朝倉さんはどう思われますか?」

──えっ。

一瞬、耳を疑った。

確かに“結婚”と聞こえたけれど、これは商談でも婚活でもないはずで……。

「結婚……ですか?」

念のため聞き返すと、神楽木さんは真顔で頷いた。

「ええ、個人的な興味として。」

個人的──この人、ほんとうに仕事とプライベートの境が曖昧すぎる。

けれど、質問の意図をはぐらかすような空気は一切なかった。
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