【マンガシナリオ】あの絵をほめてくれたのは君だけだったから

第1話

某県、とある有名美大前。
校舎を見上げる絵美。

絵美「ついに来た。有名な美術大学。
   お母さんは都内の大学に行けって言ってたけど……。
   私は絵を勉強したいんだ」

大学を見上げている絵美に、後ろから人がぶつかる。

絵美「きゃっ!」

描斗「あ、すいません」

描斗、頭を下げつつ、絵美の横を通りすぎる。

絵美、頬を膨らましながら怒る。

絵美「むー、なにあれ。イケメンだし謝ってはいたけど、態度良くない」

描斗を追うように大学内に入っていく絵美。


数日後、大学の講義室、絵の授業。

講師「さっそくですが、皆さんペアになってください。
   相手をモデルに描いてもらいます」

絵美、講義室内を見渡す。
部屋の端に見覚えのある顔。

絵美「あーっ、この前の!」

描斗、絵美に気がつく。

「あ、先日はすいません」

描斗、小さい声ながらも改めて謝る。

絵美「あ、いや。そこまで丁寧に謝られると……」

講師が通る

講師「貴方たち、ペアでいいですか?」

絵美、戸惑う。

絵美「え、あ、まだ決めたわけじゃ……」

描斗「俺はいいですよ」

描斗の返事に驚く絵美。

講師「だ、そうですよ。それにもう他の方たちはペアになっているようですよ」

絵美、周りを見る。他の学生は皆、ペアになっている。

絵美「う~、じゃあ、よろしく……お願いします。えっと……」

描斗「『神尾 描斗(かみお かくと)』、よろしく」

絵美、何かを思い出そうとする。

絵美(神尾……くん? いつか聞いたことあるような……)

描斗「ねえ」

絵美、ハッとする。

描斗「君の名前も教えてほしいんだけど」

絵美「あ、ああ、ごめん。『小鳥遊 絵美(たかなし えみ)』、よろしくね」

描斗「ん」

描斗、頷くだけで、すぐに絵を描く準備に入る。

絵美「むー、愛想ないなあ」

絵美も絵を描く準備を始める。


一時間後。

講師「そこまで、未完成でもいいので見せ合ってください」

皆、絵を描く手を止める。
そしてそれぞれ見せ始める。

描斗「どっちから見せる?」

絵美「えっと……じゃあ、私から!」

絵美、大声で自信ありげに絵を、描斗の方に向ける。
その声に、描斗以外の学生も、絵美の絵の方を見る。

描斗「……」

無言で見る描斗。周りの学生は絵美の絵を見て怪訝そうになる。

学生1「失礼だけど、下手じゃね?」

学生2「ていうか、あんな絵でこの美大に入れたの?」

皆のヒソヒソ声が絵美にも届く。

絵美「う……」

絵美、思い出す。

絵美(わかってた。昔からそうだった。
   私、絵が大好きなのに、いつも下手って言われて……。
   でも、ここに入れたからにはやっていけると思ってたのに……)

絵美の目に涙が溜まる。
だがそんな絵美と周りの学生を気にもせず、描斗は呟いた。

描斗「ん……。良いんじゃない? 俺は好きだよ」

絵美「え……?」

描斗の呟きに、絵美の昔の記憶が蘇る。

『いいんじゃない? オレは好きだよ』

幼い頃に、同じようにそう呟いた男の子がいた。
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