【マンガシナリオ】あの絵をほめてくれたのは君だけだったから

第2話

大学、美術講義室内。

描斗「ん……。良いんじゃない? 俺は好きだよ」

そう呟いた描斗に、絵美の昔の記憶が蘇る。


回想:小学生時代

生徒1「絵美の絵ってさ、その……」

生徒2「はっきり言ってヘタじゃね?」

生徒に囲まれ、バカにされる絵美。
そこを、正直目立たなそうな男の子が横を通る。

生徒2「なあ、お前も思うだろ? 絵美の絵、ヘタだよなー」

男の子、足を止め、絵美の絵を見つめる。

男の子『……』

しばし無言。

生徒1「ねえ……?」

生徒2「ヘタすぎて何も言えないよな!」

だが男の子は小さく反対のことを呟いた。

男の子『いいんじゃない? オレは好きだよ』


現在:大学、美術講義室内。

描斗「ねえ」

絵美、思い出から現実に戻りハッとする。

描斗「そろそろこっちの絵、見せていい?」

絵美「え、あ、うん。見せて!」

描斗、絵美の方に絵を向ける。

絵美「わあ……!」

絵美だけじゃなく、周りの学生も驚愕。

学生1「マジ? 描く時間、一時間しかなかったんだぜ?」

学生2「すっげー……」

上手すぎる描斗の絵。
講師もやってくる。

講師「まあ、流石ですね。神尾くん」

講師が『神尾』と呼んだことでざわめく学生たち。

学生1「神尾って、もしかして……」

学生2「いつ頃からか、絵に関する賞を総なめにしてる、あの神尾!?」

描斗、めんどくさそうに返事をする。

描斗「ん……まあ、そうっす」

描斗、講師の方を向く。

描斗「授業、終わりっすか?」

講師「あ、そうね。本日はここまでにするわ。すごい絵も見られたからね」

それを聞いて、描斗、周りの視線から逃げるように講義室を後にする。

絵美、立ち去っていく描斗を尊敬の目で追う。

絵美「すっごいなぁ……。私もあれくらい上手く描けたら……」

そう考えた絵美の脳内に、先程の描斗の言葉が浮かぶ。

『ん……。良いんじゃない? 俺は好きだよ』

絵美、自分の描いた描斗の絵を見る。

絵美「でも……やっぱり、上手くなりたいよ……」


絵美、一人で風景の絵を描いている。
そこに通りかかる描斗。

「あれ、さっきの……。小鳥遊さん、だっけ」

「あ、神尾くん」

絵美、描斗に向き直って問う。

「ねえ、どうやったら神尾くんみたいに上手く描ける?」

「上手く? さあ……」

描斗、困ったように頭をかく。

描斗「でも俺は、あんたが描いた絵、いいと思うんだけど」

絵美「ダメ! 私の絵なんて……」

絵美の脳裏に、今まで馬鹿にされてきた経験が浮かぶ。
しかし、描斗は絵美を睨むようにしてキツく言った。

描斗「ひとつ言っとく。自分の絵に『なんて』とか言うな」

描斗、ハッとした後、絵美の横を通りすぎる。

描斗「……じゃあ」

絵美「あ……」

立ち去る描斗の背中を見るしかできない絵美。

絵美「……これだけ描いたら帰ろう」


絵美の住むアパート。

絵美「思ったより遅くなっちゃった。明日もあるのに……」

絵美、部屋の扉を開けようとして、向こうから来る人物を見る。

絵美「神尾くん……?」

描斗「……え」

そこには、コンビニの袋をもって、隣の部屋に入ろうとする描斗がいた。
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