カンペキ王子は、少々独占欲強めです。
進学校というのは、何事にも全力だ。

たかがクラスの顔合わせ。されどクラスの顔合わせ。
花乃の高校では、それすら一泊二日の合宿でおこなうという力の入りようだった。

「すごいよね、この学校……。本当に、何でも本気」

バス乗り場に並ぶクラスメイトを見渡しながら、花乃はぽつりとつぶやいた。

大型バスに名簿順で座席が割り振られると聞いて、特に気にしていなかった――はずだった。
けれど、出発直前、配られたプリントを見た瞬間、胸の奥がひやりと冷たくなる。

――37番、窓側。
その隣、38番の通路側に座るのは──

「……湯田中、陸……?」

小さな声が、思わず漏れた。

(……あの湯田中と隣……)

女子の間で圧倒的人気を誇る、完璧すぎる男。
彼の隣に座るというだけで、周囲の空気が微妙にざわつくのがわかる。

(目立ちたくないのに……)

気まずさと緊張をごまかしながら、花乃はそっと自分の席──37番に腰を下ろす。
そのときだった。

「やっぱり、花乃ちゃんだった。俺の隣」

明るくて、少しだけ低めの声。
振り向くと、そこにいたのは、陸。
彼は軽やかに笑って、隣の38番に腰を下ろした。

「あ……偶然だね。名簿順……だし」

精一杯、平静を装ったつもりだった。
でも陸は、笑みを浮かべたまま、さらりと――

「うん。でもさ、俺、偶然ってあんまり信じてないんだよね」

「……え?」

「こういうのって、なるべくしてなるって思わない?」

どこか含みのある声と、まっすぐに向けられた視線。
あたたかいのに、なぜか背筋がすっと伸びた。

(……なんで、そんなふうに見るの)

心の奥が静かにざわめく。
そして、ふと浮かんでしまう。

――……あの言葉、覚えてるのかな。

花乃は、何も聞けなかった。
でも、隣の席で微笑む陸の横顔に、目が離せなかった。
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