カンペキ王子は、少々独占欲強めです。
「……ほんと、花乃って昔から変わんねぇな。
マジで、鈍い。こっちが何言っても、全然気づかねぇ」

軽口のように聞こえるが、その声には、確かな“自覚のある苛立ち”がにじんでいた。

「中学のときもさ、オレ、けっこう色々言ったつもりだったんだけどなー?
なのに、ぜんっぜん伝わってないし」

あくまで明るく。
だけど言葉の端々に、じわじわとした熱が滲む。


花乃は戸惑って、和樹の方を見る。
けれど彼は、にこにこと肩をすくめて、

「お前、昔からほんと、鈍いよな」

と、どこか勝ち誇ったような笑みを見せた。

その瞬間だった。

「……花乃が鈍いわけないでしょ」

ぽつりと、隣の陸が言った。

それは、ささやくような声。
けれど、その響きにはどこか含みがあった。
明らかに“和樹の言葉”を否定する意図を持って。

「……ん? なにそれ」

陸は微笑んだまま。
けれど、その目は笑っていない。

「俺は……ちゃんと、見てきたから。
花乃が、どうやって人を見て、どうやって気づいて、どうやって自分の中にしまうかも」

静かな、けれど鋭利な言葉だった。

「だから、鈍いなんて……そんなこと、言えない」

和樹の笑顔が、ほんの一瞬だけ止まる。

──静かに、バチンと火花が散った。

「へえ、そう。……そっか。じゃあまあ、頑張れ」

「うん。ありがと。……じゃあ君も」


ふたりの間に、わずかな沈黙。

花乃は、胸の奥のざわめきを感じていた。

(なんか……今の……)

隣の陸は、今までにない、少し低い声を出していた。
そして、和樹の笑い方も、いつもよりずっと硬かった。

答えは出ないまま。

バスは、目的地に向けて走り続ける。

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