カンペキ王子は、少々独占欲強めです。
「矢田ー! ちょっと戻ってきてもらえる?」

廊下の静けさを破って、遠くから聞こえる声。

花乃がはっと顔を上げると、同じ班の男子──福原が小走りで近づいてきた。
その視線が、ベンチに座る陸に気づいた瞬間、目を見開いた。

「……あれっ? 湯田中?」

驚き混じりの声に、陸は軽く顎を引いて返事をしただけだったが、
福原は明らかにテンションを上げた。

「いや、びっくりした! 矢田、湯田中と知り合いだったんだ?」

「えっ、あ……」

言葉に詰まる花乃をよそに、福原は「すげーな」と笑っていた。
この学校で“湯田中陸”といえば、文武両道・才色兼備の象徴のような存在。
そんな彼と廊下でふたりきり。──注目されるのも当然だった。

花乃はなんとも言えない気持ちで、そっと立ち上がる。

「……戻ろうか」

小さく言うと、陸もすっと腰を上げた。

「うん」

福原はまだニヤニヤしていたが、何も言わず、3人で会議室へと歩き出す。
その後ろ姿を見ながら、福原がぽつりとつぶやいた。

「……矢田、マジですげー」

(そんなこと、ないのに……)

花乃は内心で首を振りながら、でも、なぜか心の奥が少しだけくすぐったかった。
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