カンペキ王子は、少々独占欲強めです。
「……戻らないと」

花乃が立ち上がろうとしたそのとき、
隣に座る陸が、静かに口を開いた。

「五分まで、あと三分あるよ」

「……え?」

「五分までって言ってたでしょ」

「……そ、そうだけど」

一瞬きょとんとした花乃に、陸はふっと目を細めた。
その横顔は、どこかいたずらっぽくて、でも優しくて──

「……五分、花乃のこともらったから」

「…………え?」

「今の時間。僕のってこと」

そう言って、陸はさらりと視線を戻した。

冗談みたいに軽いトーンだったのに、
言葉がじわっと胸に染み込んでいく。

(なにそれ……ずるい)

花乃は思わず笑ってしまった。
ふふっとこぼれた声が、廊下の静けさにやさしく溶けていく。

陸のとなりにいると、どうしてだろう。
さっきまでしんどかった胸の奥が、少し軽くなっている気がした。

彼の指に触れたことも、今こうして隣にいることも。
全部、ちょっとだけ特別に感じてしまう。

(気のせい……かな)

胸の奥に広がる温度をごまかすように、花乃は視線をそらした。
その横で、陸はほんの少しだけ、口元を緩めたように見えた──
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