八咫烏ファイル

王が葉巻の煙をくゆらせているその社長室から先ほどの幹部三人が出てきた。

三人がエレベーターホールへと向かったその時だった。

チンと軽やかな音がしてちょうど目の前でエレベーターの扉が開く。

中から二人の男が姿を現した。
そのあまりにも異質な気配。
幹部三人はその場で足を止めると新たなる来訪者たちに胸の前で両手を合わせて敬礼をした。
そして無言のままですれ違うようにしてエレベーターに乗り込み扉が閉まった。

エレベーターから降りてきた二人の男。
彼らは社長室の扉をノックもなしに開けた。
一人は絹のような黒い長袍(チャンパオ)を身にまとった細身の男。その顔は若くも老いても見える不思議なほど無表情だった。
もう一人はその男の倍はあろうかという山のような巨漢。着ている高級スーツはその異常なまでに発達した筋肉ではち切れそうになっている。
彼らこそ本国から送り込まれてきた最強の助っ人。
**蕭 飛燕(ショウ・ヒエン)通称:飛燕
石 岳(セキ・ガク)通称:黒岳**だった。

二人はデスクに足を上げたままの王 霸の前まで進み出ると静かに一礼した。

「本国からの助っ人はお前たちか!」
王が呼びかける。
「『飛燕』そして『黒岳』」
「「はっ!」」
二人の短い返事が重なった。
「ハッハッハ!とんでもない奴らを送ってくれたもんだ!」
王は心底愉快そうに大声で笑った。
そしてデスクから足を下ろすとゆっくりと立ち上がる。
「まぁ座れ」
王は二人をソファへと誘導した。

飛燕と黒岳は言われた通りソファに座る。王もその反対側のソファに深く腰を下ろした。
王は二人に作戦の全容を語り始めた。

「……前のボス林 豪は日本のヤクザに雇われた殺し屋に殺された」
「俺はその報復として奴らのシマを一つ潰した。戦争の始まりだ」
「そしてこれから第二段階へと移行する。日本の警察権力そのものを叩き潰しその混乱に乗じて関東誠勇会の本部を完全に陥落させる」

王はそこで一度言葉を切ると二人の目を順番に見た。
「お前たちの役目はその仕上げだ」
そして王は作戦の後半部分を告げる。
「もし万が一俺の作戦を掻い潜って奴らが報復に来た場合。このビルの一階で迎え撃て」

王の目が鋭く光る。
「いいか。絶対に地下には行かせるな!」
「「はい!」」
二人は力強く頷いた。
「俺はここで各部隊の司令をする」
王はそう言うと満足げに葉巻をふかした。
全ては計画通り。

東京の夜が血に染まるまであとわずかだった。
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