最高の娘

第3章 静かな手

母は、静かに片付けをする人だった。
汚れた手も、床についた血も、見つかる前に綺麗にしてしまう人だった。

私は、そんな母を見て育った。

＊

ある日、ユウくんが私の部屋に来た。
ドアの隙間から、こっそり覗いていたらしい。

「ねえ、その子ばっか構って、気持ち悪いよ」
彼は眉をひそめて、小さな彼女のことを“虫みたい”だと言った。

私は笑って、曖昧に首を傾げた。
「そう思うんだ？」とだけ返した。

その夜、ユウくんが廊下で転んだ。
消灯後の薄暗い通路。足元に置かれたバケツ。濡れた床。
声を出す暇もなく、彼は階段から落ちていった。

“事故”として処理された。
先生たちは、「悪戯好きのユウくんらしい」と少し涙ぐみ、「危ないから皆、気をつけて」と私たちに言った。

私は静かにうなずいた。

＊

彼女は私に聞いた。
「ユウくん、どこいったの？」

私は髪を撫でてあげながら、優しく答えた。
「ユウくんはね、もういらない子だったのよ」

彼女は、よくわからないという顔で私を見つめた。
けれど私は微笑んで、その目を見つめ返した。

大丈夫。もう邪魔は入らない。
私は、あなたを守る。

“母”のように。
いや、“母”以上に、上手に。


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