最高の娘

第2章 「光」

施設の朝は早い。規則的なチャイムの音と、年季の入ったスピーカーから聞こえる先生の声で目が覚める。

私はもう中学生になっていたが、生活はずっと変わらない。決められた時間に起き、決められた食事をとり、決められた言葉で返事をする。自由はないけれど、不自由とも思わなかった。

母がいなくなってから、私はそういうものの中で生きるしかなかった。

でも、その日。私はその子に出会った。

廊下の隅。まだ幼い女の子が、ぬいぐるみをぎゅっと抱きしめて泣いていた。

「どうしたの?」

そう声をかけたのは、自分でも驚くほど自然だった。

その子は顔をあげ、涙をこらえながら「こわいゆめ、みたの」と言った。

私は黙って、その子の頭を撫でた。

あの頃の私も、よく夢を見て泣いていた。母は、黙って抱きしめてくれた。

だから私も、抱きしめた。

その子が少しだけ笑った時、私は確かに、胸の奥で何かが灯ったのを感じた。

――私が守らなきゃ。

誰も守ってくれないこの場所で、私はあの子を守るって決めた。

私の母がしてくれたみたいに。

母は最高だった。

だから私も、最高の娘になる。

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