『先輩、あの日の約束、 覚えてますか?』
第2話「駅前の本屋さんに、あの日の約束を」
発売日なのに、実感がない。
いや、たぶん緊張しすぎて、感覚がどこか飛んでるんだと思う。
──本日発売
“第31回 小説グランプリ 受賞作『雨に咲く』”
駅前の本屋さんに、私の名前が並ぶ。
夢みたいな話が、本当に現実になった。
ビニール傘をくるくる回しながら、駅から少し歩いたその場所は、何ひとつ変わっていなかった。
本屋のガラス越しに、表紙が見える。
私の名前。白い文字で、ちゃんとそこにあった。
(……本当に、並んでる)
胸の奥がきゅっとなって、私はそっとドアを押した。
*
本棚の前で、足が止まる。
緊張と照れと、なにより信じられない気持ち。
「……すみません、この本って在庫ってまだ──」
すぐ近くから聞こえた声に、私は一瞬で動けなくなった。
低くて、でも耳に残っていた声。
「……この本、もう何冊かあります? 全部ください」
ゆっくりと顔を向けると、そこにいたのは──
スーツ姿の男性。
少し大人びたけど、間違いようのない、あの人だった。
「……先輩」
声がかすれて、自分でもびっくりする。
彼はゆっくりとこちらを見て、そして、ふっと笑った。
「遅い。発売時間、朝イチじゃなかったっけ」
「……なんで……ここに……?」
「約束したから。忘れたの?」
心臓が跳ねた。
「俺、お前の本、ぜんぶ買い占めに来たんだけど──」
「売り切れだった」
悔しそうに眉をひそめながら、でも、目だけは笑っていた。
いや、たぶん緊張しすぎて、感覚がどこか飛んでるんだと思う。
──本日発売
“第31回 小説グランプリ 受賞作『雨に咲く』”
駅前の本屋さんに、私の名前が並ぶ。
夢みたいな話が、本当に現実になった。
ビニール傘をくるくる回しながら、駅から少し歩いたその場所は、何ひとつ変わっていなかった。
本屋のガラス越しに、表紙が見える。
私の名前。白い文字で、ちゃんとそこにあった。
(……本当に、並んでる)
胸の奥がきゅっとなって、私はそっとドアを押した。
*
本棚の前で、足が止まる。
緊張と照れと、なにより信じられない気持ち。
「……すみません、この本って在庫ってまだ──」
すぐ近くから聞こえた声に、私は一瞬で動けなくなった。
低くて、でも耳に残っていた声。
「……この本、もう何冊かあります? 全部ください」
ゆっくりと顔を向けると、そこにいたのは──
スーツ姿の男性。
少し大人びたけど、間違いようのない、あの人だった。
「……先輩」
声がかすれて、自分でもびっくりする。
彼はゆっくりとこちらを見て、そして、ふっと笑った。
「遅い。発売時間、朝イチじゃなかったっけ」
「……なんで……ここに……?」
「約束したから。忘れたの?」
心臓が跳ねた。
「俺、お前の本、ぜんぶ買い占めに来たんだけど──」
「売り切れだった」
悔しそうに眉をひそめながら、でも、目だけは笑っていた。