『先輩、あの日の約束、                         覚えてますか?』

第3話「火曜日の続きを、あなたと」

 駅前の小さなカフェ。
 本屋のすぐ近くにあるその店も、高校のころと変わらない。

 私と先輩は向かい合って、湯気の立つカップを前に、少しだけ黙っていた。

 「……びっくりしました」
 最初に口を開いたのは、私だった。

 「ほんとに、来てくれるなんて」
 「……まぁ。約束、したからな」

 彼は照れくさそうにカップの縁を見つめていた。
 昔と同じように、どこかぶっきらぼうで、でもあたたかい目をしていた。

 「でも、卒業してから、連絡もなかったのに……」
 「知ってたよ。受賞したってニュースで見た」

 ──あ、そっか。あの賞のこと。

 「そっから発売日調べて、ここの本屋、まだあるかなーって来てみた」
 「……ストーカーみたいじゃないですか」
 「おい」

 ふふっと笑って、久しぶりに胸の奥があったかくなる。

 変わったことも、変わらないことも、ちゃんとここにある気がした。

 「小説……先輩、今も書いてますか?」

 しばらくの沈黙のあと、彼はぽつりと答えた。

 「……書いてるよ。ほんのちょっとずつ、だけどな」

 「読みたいです。いつか、あの時の続きを」

 先輩のまなざしが、少し驚いたように私を見つめた。  そして、小さく、笑った。

 「……覚えてたんだ」
 「もちろん。あれが、はじまりだったから」

 少しの沈黙。
 だけどそれは、なにも言わなくても通じるような、静かで優しい時間だった。

 「じゃあさ」
 「はい?」
 「次の本、出すときも教えろよ。今度は、発売日に間に合うように来るから」

 「……はい」

 また火曜日が、私のなかで特別になっていく気がした。
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