『先輩、あの日の約束、 覚えてますか?』
エピローグ「火曜日が、嫌いじゃなくなった日」(先輩視点)
駅前の本屋には、変わらない匂いが残っていた。
久しぶりに来るその場所で、俺は何度もスマホの時計を見た。
時間ぴったりに並んだはずの彼女の本は、すでに売り切れていた。
(……らしいな)
ひとりで笑って、それでも店員に訊いてみた。
「この本、在庫全部ください」って。
あの約束を、ただの冗談で終わらせたくなかったから。
彼女は来ないかもしれない。
そう思っていた。
でも──あのときと同じような足音が、ふと背中に届いた。
振り返ると、あいつがいた。
目が合った瞬間、10年分の火曜日が、いっぺんに胸に押し寄せてきた。
あのころ、言えなかった言葉がたくさんある。
“お前の小説、すごく好きだった”
“本当は、あの火曜日が一番楽しみだった”
“今でも、書いた言葉に救われてる”
けど結局、それらは言わなかった。 ただ、あいつが笑っていたから、それでいいと思った。
カフェのテーブルに、彼女が手書きのサインをした本を置いていく。
「これ、ちゃんと全部買い占めようとしてくれたお礼です」って。
俺は笑って受け取って──けど、本の裏に小さなメモが挟んであった。
“次の作品も、きっと、先輩に読んでほしいです。”
今度こそ、ちゃんと伝えようと思った。
“お前の書く物語が、俺の一番好きな物語だ”って。
久しぶりに来るその場所で、俺は何度もスマホの時計を見た。
時間ぴったりに並んだはずの彼女の本は、すでに売り切れていた。
(……らしいな)
ひとりで笑って、それでも店員に訊いてみた。
「この本、在庫全部ください」って。
あの約束を、ただの冗談で終わらせたくなかったから。
彼女は来ないかもしれない。
そう思っていた。
でも──あのときと同じような足音が、ふと背中に届いた。
振り返ると、あいつがいた。
目が合った瞬間、10年分の火曜日が、いっぺんに胸に押し寄せてきた。
あのころ、言えなかった言葉がたくさんある。
“お前の小説、すごく好きだった”
“本当は、あの火曜日が一番楽しみだった”
“今でも、書いた言葉に救われてる”
けど結局、それらは言わなかった。 ただ、あいつが笑っていたから、それでいいと思った。
カフェのテーブルに、彼女が手書きのサインをした本を置いていく。
「これ、ちゃんと全部買い占めようとしてくれたお礼です」って。
俺は笑って受け取って──けど、本の裏に小さなメモが挟んであった。
“次の作品も、きっと、先輩に読んでほしいです。”
今度こそ、ちゃんと伝えようと思った。
“お前の書く物語が、俺の一番好きな物語だ”って。

