靴に魔法をかけたのは
1 幸せには靴を履いて
 幸せへと踏み出すための仕上げは靴を履くことだ。
 だから靴は重要アイテムだ。シンデレラだって、幸せへの決め手はその靴だったのだ。
 そう思っているのだが。

「しっくりこないなあ」
 望月晴佳(もちづき はるか)はため息まじりに棚を眺めた。
 いならぶ数々の女性向け新商品はブーツが多く、秋らしい茶やカーキの落ち着いた色が季節感にあふれている。本部の指示通りに平台に並べたが、訴求力が足りない気がする。

「君たちが頑張ってくれないとお客様が幸せになれないじゃない?」
 思わず声をかけると、くすくすと笑い声が聞こえた。
「店長、また靴に話しかけてる」
 振り返ると、バイトの鹿山芽瑠(しかやま める)がいた。ここ『シューズショップハッピー』で働いて一年になる彼女は二十歳ながらに仕事ができる。晴佳は彼女をすごくあてにしている。

「ついやっちゃうのよねえ。二十九歳にして子どもみたいかも」
「かわいいですよ」
 晴佳は苦笑した。芽瑠のほうがよほどかわいい。内巻きの明るい茶色のボブヘアはさらさらでなめらか。ぱっちり大きな目に、ぽってりした唇。最新のファッションに身を包み、靴もおしゃれ。今日はスニーカーに二色の紐を使い、複雑な結び方をしてゴージャスに見せている。
 靴のデザイナーになりたいという彼女は、専門学校へ行くお金を貯めるために働いている。

「この展示、どう思う?」
「わかりやすいですよ。定番の並べ方で」
「できれば都心の店みたいにおしゃれにしたいな」
 都心のショップのような場所をとる並べ方は、ここのようなファミリー向け店舗には不向きだ。求められるのは身近で適度なおしゃれ感、お財布に優しい価格。
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