靴に魔法をかけたのは
「都心だと万引きも増えそうですね」
「そうかもね」
 昨日も万引きがあって、忙しい日曜日にぴりついた空気が流れた。

 万引きにはいつまでも慣れない。お客様を疑いたくないのに、挙動があやしいとつい見張る目になってしまい、自己嫌悪に陥る。
 だが、仕事はやりがいがあって楽しい。笑顔になるお客様を見ると、心が温かくなる。

「明日は店長会議だから、午後には来るけどお店をよろしくね」
「任せてください!」
 頼もしい笑顔に、晴佳はにっこりと笑顔を返した。



 晴佳の普段の勤め先は郊外のオープンモールで、独立した店が並び、広い駐車場がある。アウトレットモールによく見られる形態だ。
 毎週火曜日は店長会議がある。本社で行われるため、いつもより早く家を出て車に乗り込み、二十三区の端にある本社へ向かう。

 会議後は店に行くので、カットソーにデニムという軽装で、こだわりポイントはやはり靴。新商品の革靴は甲がゆったりしていてはきやすいが、少し脱げやすい点が気になった。

 付属する駐車場に止めて本社ビルに入り、持ってきた名札を首にかける。
 ビルの外観は古くて厳めしいが、中はリフォームがされていて、多少の圧迫感はあるものの、オフィスらしい落ち着きがあった。

 シューズショップハッピーは、もともとは商店街にある地元密着型の靴ショップだった。
 二代目の現社長がチェーン展開し、今は都内に二十店舗を持つ、急成長の企業となった。

 メインであるシューズショップハッピーはファミリー向けで、多様な商品をそろえている。
 数年前には紳士靴専門の店舗を作った。軌道に乗った現在、次店舗の展開を検討中だという。
 ホールに行くと、ちょうどエレベーターが上がったところだった。
< 2 / 51 >

この作品をシェア

pagetop