靴に魔法をかけたのは
「俺もさ、仕事のほうが楽しくって。本当にアメリカ支店ができるなら真っ先に志願するんだけどな。今の店でも海外のお客さんが来るし、英語の勉強は続けてる」
「アメリカ行きたいんだ?」

「子どものころの夢なんだ。海外で働くってかっこいいなって、単純な動機だけどさ」
「意外に夢見る子どもだったんだ」

「中学で陸上を始めてからは靴に興味が出たけどな」
「前に言ってたね。靴でタイムが変わるから面白かったって」

「靴の力に気が付いた瞬間だった。シークレットブーツは背が低い人のコンプレックスを和らげてくれるし、夜の店だと客の懐具合を靴で見極めるって言うだろ? 奥が深いなって思ったんだ」
「中学かあ」
 晴佳の足へのコンプレックスは中学時代に作られた。

 好きな男の子と足のサイズの話をしていたとき。
『二十五センチ? でか! 巨人じゃん!』
 彼に笑われ、ショックで恋が吹き飛んだ。

 以来、足はコンプレックスになった。のちに彼から告白されたが、笑われたことが忘れられなくて断った。

「もっちーは大学のときに靴に目覚めたんだっけ?」
「そうなの。足が大きいのがコンプレックスで。もし現代日本に纏足(てんそく)があったら超地獄だった」

「昔の中国の風習だよな。足を縛って小さく変形させるって、絶対に健康によくない」
 諒は端正な顔をしかめ、首をふった。
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