靴に魔法をかけたのは
「特にないです。ほかのバイトには聞いたんですか?」
「ないって言われちゃった」
晴佳はため息をつく。
「おとといのアイディアじゃダメなんですか?」
「お客様が幸せになれるものがいいなあと思い直して」
「店長の目標ですもんね。人を靴で幸せにしたいって」
言って、芽瑠は考え込む。
「靴と幸せと言えば、シンデレラ? だけどガラスの靴って靴擦れひどいことになりそうですね。あれでダンスして階段を駆け下りて、シンデレラはどんだけ頑丈なんでしょうね」
言ってから、彼女はなにか閃いた顔をした。
「足の健康を促進する企画ってどうですか? 外反母趾で悩む人も多いですし」
「昔よりは楽な靴が増えたけど、スーツだとパンプスになるもんね。ちょっと考えてみる」
黒いパンプスが並ぶ棚を見て、スーツにスニーカーでOKな時代がくればいいのに、と思う。男性だってスニーカーのほうが楽だろう。
自動ドアが軽い音を立てて開き、制服を着た小柄な少女が入って来た。表情は暗く、無造作に伸びた髪は後ろでひとつに結ばれていた。
いらっしゃいませ、と言ったあと、芽瑠は晴佳にささやく。
「あの制服、近くの中学校ですよね。おかしくないですか。今の時期、テストでも面談でもないのに」
「そうだね……早退かな」
午後一時。普通ならまだ学校だろう。
晴佳は改めて彼女を見る。肩を丸めて歩く彼女の姿はなにかに怯えているかのようだ。万引きをする子ならもっと緊張感が漂っていたり、目に険があったりなど、雰囲気が違う。
セール品の棚を熱心に見る彼女に、晴佳はさりげなく寄って行く。