靴に魔法をかけたのは
「いらっしゃいませ、気になったものがあったらお気軽にお試しください。サイズはお出ししますから」
 少女はびくっとして店を出て行き、その背に「ありがとうございました」と声をかけ、晴佳は首をかしげた。妙に気にかかる女の子だ。

「すみません、これってここにあるだけですか?」
 晴佳が振り返ると、女性が編み上げのブーツを手に持っている。

「少々お待ちください」
 スマホを取り出して店員専用のアプリを立ち上げ、彼女の持つブーツのバーコードを読む。在庫は一となっていた。

「こちらが最後の一点となります」
「どうしよう……」
 うーん、と彼女は悩み始める。

「どうぞお試しください」
 近くにあった鏡を寄せ、晴佳はにっこりと笑顔を見せた。試着のあとに辞めてもかまいませんよ、と伝えるために。
 女性はためらうように自身の靴を脱ぎ、靴に両足をはめこむ。

「やっぱかわいい」
 女性の眉が目尻とともに下がり、口元が緩んでいる。
 濃茶のブーツは底が厚めで、まるっこいつま先に辛めのデザインのベルトがついている。金具がレトロで、ほかとは一線を画していた。

「かわいいだけじゃなくて歩きやすいんですよ。厚底すぎないですし、かかとが太いので安定感があって。幅広のベルトがスパイシーですよね」
「それがいいなって思ってて……最後の一足かあ」

 かかとを上げたり下げたり、角度を変え、彼女は鏡の中の自分を確認する。
 やがて、なにかを決心したかのように、頷いた。
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