靴に魔法をかけたのは
「あなたに連れてかれる形でアメリカに行くのは嫌。行くときは自分の力で行く」
「あ、うん、旅行ってことかな」
 諒の声がうわずっている。ゴミの入った袋を手に四阿の二段しかない階段を降りる途中、足を滑らせて彼の靴がぽろっと脱げた。

「自分も靴が脱げてんじゃん」
 晴佳は大きな靴を拾い、彼の前に置く。
「わりい」
 照れたように顔をそむけ、彼は靴をはき、とんとん、と地面をかかとで叩く。

 その仕草が芝居がかっていて、俳優のように見えた。
 こんな姿までかっこよく見えるなんて、恋って魔法みたいだな。
 思った直後、気が付いた。
 シンデレラの靴が残ったのは、恋の魔法にかかったからなのでは。

 瞬間、ぶわあっと思い出が駆け抜けた。
 入社式で隣に座ったこと。足小さいじゃん、って言われたこと。頭をわしゃわしゃされたこと。お前にしかやんねーよ、と言われたこと。
 すべてがないまぜとなっていっきにあふれ、そうして口から零れる。

「私も、たぶん、好き」
「は?」
 彼はまたしても目を見開き、晴佳を見る。

「アメリカで待ってて。私が行くから」
 晴佳は決意を込めて見つめ返す。
 やわらかな風がふたりの髪を揺らし、彼の顔がゆっくりと笑みに染まっていく。

「待ってるよ」
 彼は手を伸ばし、晴佳の頭にぽん、と手を置いた。そのままわしゃわしゃと撫でまわす。

「もう、また!」
 手を払い、自分の髪を直しながら彼を見る。
 返って来た甘い眼差しを受け止め、晴佳の胸が熱く鼓動を打つ。彼がこんなに輝いて見える日が来るなんて、思ったこともなかった。
 秋の空は澄み渡って高く、どこまでもどこまでも青く広がっていた。





終
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