靴に魔法をかけたのは
「驚かないんだな」
「さっき、皐月ちゃんから聞いた」
「……事務だから話が先にまわるのかな」
 頭をがりがりかいて、諒はつぶやく。

「海外で働くのが夢って言ってたもんね。いいなあ、夢を叶えるんだ。なんだか置いてかれる気分」
 晴佳は無理矢理に笑った。原点に戻れと言った彼は、とうに次への一歩を踏み出していたのだ。

「まだ当分、先だけどな。アメリカに出す店の店長は俺、って決まっただけだから」
「でも、最終的には行くんでしょ?」

「そうなるな……でさ、副店長にお前を推薦したい」
「はあ!?」
 晴佳はあっけにとられて諒を見た。

「俺と一緒にアメリカで頑張ってくれないか」
「それは……」
 プロポーズみたいな言葉に、晴佳は目を泳がせた。
 池の水面を風が撫で、さざ波が立つ。鯉が身をひるがえし、ぱしゃん、と水音が立った。

「ちょっと……嫌かな」
 晴佳が答えると、諒は驚きに目を見開いて、それから大きく息を吐いた。

「俺とお前ならいいコンビだと思ったんだけど……自惚れてたな」
 彼はははっと笑ってホットドッグの包み紙をくしゃくしゃに丸め、紙袋に放り込む。そのまま立ち上がって帰り支度を始めたので、晴佳も荷物をまとめ、ふとその手を止める。

「うん、だって、やっぱり嫌だよ」
 なにかに納得したように頷き、晴佳は立ち上がった。
 目の前に立つ諒を見上げると、彼もまた晴佳を見た。

「トドメ刺すなよ。オーバーキル」
 はは、と笑う諒を、晴佳はまっすぐに見つめる。
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