「物語の最後に、君がいた」

第13話 好きな人がいるって、心強い


翌朝、澪は久しぶりにすっきりとした目覚めを感じていた。

カーテン越しの光が、ゆっくりと部屋を照らしていく。
“また今日も一日がはじまる”――
それが、少しだけ嬉しいと思ったのは、きっと初めてだった。


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待ち合わせ場所は、昨日と同じ書店の前。
澪がついたとき、悠真はすでにいて、手に紙袋を抱えていた。

「はい、これ」
「昨日言ってた本、探してたら見つけたんだ。澪が好きな作家の初版本」

「……えっ、いいの? 高かったでしょ……?」

「いいの。澪が喜ぶなら、それで」

さりげない一言が、胸の奥に落ちていく。
(わたしは、こんなふうに大切にされたことがあったかな)


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ふたりはそのまま、バスに乗って少し郊外の図書館へ向かった。
静かで広い空間。
本の匂いと、ページをめくる音。
そのなかで、ふたりは別々の本を読みながらも、ずっと近くにいた。

悠真がそっと話しかける。

「澪ってさ、本当に本が好きなんだなって思う」
「……いつか、自分で書いてみたいとか思わない?」

澪は、ふと目を見開いた。

「……え?」

「澪の言葉、ちゃんと人に届くと思うよ。俺、読んでみたいって思う」
「そういう未来も、いいんじゃないかなって」


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未来――
それは、澪がいちばん遠ざけていた言葉だった。

(でも今の私は、あのときとちがう)
(今は、好きな人がいて……その人が、私の未来を見ようとしてくれてる)

ふと、胸の奥からひとつの言葉が浮かんできた。

「……福岡に来てよかった」

それは、誰にも強いられず、自分の意思で選んだ初めての“答え”だった。


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ホテルに戻る途中、ふたりは川沿いを歩いた。

「ねえ、悠真」

「ん?」

「……わたし、福岡の大学、受けてみようかなって思ってる」

立ち止まった悠真が、ゆっくりと笑顔になる。

「本当に? ……うれしい」

その言葉に、澪の心はふわっとあたたかくなった。

「好きな人がいるって……すごく心強いんだね」
「“生きたい”って、思えるんだね」


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“「好き」は、未来につながってた。
もう、ひとりじゃないと思えた。”

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