「物語の最後に、君がいた」
第12話 好きになるって、こんな感じだったんだ
その日も、澪と悠真は一緒に福岡の街を歩いた。
書店、川沿いのベンチ、昔ながらの喫茶店。
どこにいても不思議と落ち着いて、自分が「消えたい」って思っていたことすら、遠い昔みたいに感じられた。
それはきっと、隣に悠真がいたから。
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喫茶店の窓際席で、ふたりは本を開いたまま黙っていた。
けれど、その沈黙が心地よかった。
ときどき、視線がぶつかって、ふいに目をそらす。
そのたびに胸がじんわり熱くなった。
(……なんでこんなに、どきどきするんだろう)
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喫茶店を出た帰り道、澪がぽつりとつぶやく。
「悠真って、本好きなだけじゃなくて、人の気持ちもすごく読めるんだね」
「最初から、ちゃんとわたしのこと見てくれてたって……最近わかってきた気がする」
悠真は照れたように笑いながらも、真っ直ぐに澪を見て言った。
「澪のこと、気づいたら見てたんだよ。なんでかはわからないけど……すごく放っておけなかった」
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その言葉に、胸がぎゅっとなる。
何かが崩れて、あたたかいもので満たされていく感じ。
(わたし、たぶん……この人のこと、好きになってる)
こんな風に誰かを想うのは初めてだった。
それは、ただ優しくされたからじゃない。
ちゃんと「わたし」として見てくれる誰かが、初めて現れたからだった。
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夜、ホテルに戻ってからも、澪はスマホを握っていた。
さっき悠真と撮った写真を何度も見返す。
同じ空の下にいるのに、もう会いたくなっていた。
(ねえ、悠真。わたしね、今すごく……)
画面の向こうに言葉を送る代わりに、そっとスマホを胸に抱いた。
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“こんな気持ちが、「好き」なんだって。
やっと、わかった気がする。”