あの夏の夜の続きは今夜
「私、遅くなるかもしれないけど」
「うん、全然いいよ」

やっとほのかに右口角を上げる。

私は平常心を装って口をキュッと結んだ。

「連絡するね」

動揺を悟られないようにそう言って、「私こっちだから」と出口の方を指してその場を去る。

「またね」と言う声と、ゆるりと手を振る姿が視界に残った。

出口から出る前に一番近くの女子トイレへと駆け込む。個室に滑り込み、鍵を閉めてやっと力が抜けるように便座に腰掛けた。

やっと深呼吸をする。

浮島。浮島だ。

見た目はカッチリしてたけど、浮島だった。

もう会うことなんてないと思っていたのに、会ってしまった。

変わってなかった。

参ったなあ。

私はそっと名刺を取り出した。

浮島周。

参ったなあ。


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