あの夏の夜の続きは今夜
私が連絡先を残すと、また後で連絡が来るようで今のところは割と早めに帰された。

駅長室を出たところで一緒に出てきたサラリーマンが振り向く。

「矢田衣都さん?」

突然のフルネーム呼び。

響き、イントネーションが10年前をフラッシュバックさせた。

「はい」

私はその顔を改めて見た。

「俺たちさ、前に会ってるよね?」

勘違いだったら申し訳ないんですが、と彼はリュックの中から名刺を取り出した。

Amane UKISHIMA

ゴシック体で並ぶアルファベット。

私でも知ってる有名な企業の名前と共に収まっている。

「浮島って」
「うん」
「自衛隊じゃなかったんだっけ」
「2年前に転職したかな」

あの時のヨレヨレのTシャツ姿とは全然違う、ジャストサイズの白いポロシャツにスラックス。

「今通信系の仕事してんだ」

彼は歩き出しながら言った。

「新宿で働いてんの?」
「そう」
「そっか。今日はありがとう。今度お礼させて」

私は自分の名刺も渡して浮島の目を見た。

浮島は相変わらず表情に出さずに受け取ると、「じゃあ」と言った。

「じゃあ、今晩どう?もう予定入ってる?」

人が多い新宿駅の雑踏の中、この声だけがクリアに届く。

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