あの夏の夜の続きは今夜
「終電何時?まだ中野住んでんの?」
「うん、マンションは変えたけどね、だから終電まだ平気だよ」
「じゃあ店変えて飲む?」

浮島はビジネスリュックを背負うとママの姿を探す。

「ママ、帰るわ」

そう言うとママは今度はテーブルのお客さんに「ちょっと待ってね」と言って移動してきた。

「ええーもうちょっと話したかった、また来てね」

ショッキングピンクのネイルが私に小さく手を振った。私は作り笑いを向ける。

「これから口説かないといけないからちょっとオシャレな店行くわ」

浮島は確かにそう言ってふざけたように笑った。

店の外も外国人やサラリーマンで賑やかだった。みんな道路で大声で話し込んでいる。

「浮島って軽いよね」

私はちゃんと聞こえるように少し声を張って言う。いろんな国の言葉が飛び交っている。

「まあ、そう見えても仕方ないかもね」

浮島は顔の表情を消して私を見た。

「ちゃんと誰かと付き合ったこと、そんなにないし」
「長く付き合ったことないの?」
「長くて半年かな。続かねえんだ、マメじゃないから」

ほとんど歩行者天国だけどたまに自転車や車も通るから念のため後ろも見ながら道路を横断する。彼は私の半歩先を歩く、その一歩が私には大きい。歩幅を狭めることはなく、ゆっくりと足を出す。

太陽が姿を消したからといって涼しくなるわけではなく、まだ太陽が見えないところにいてその熱風だけが地球の裏側にまでやってきてる、そんな感じがする。

じっとりとした空気、すれ違う人の肌。

慣れたようにひょいひょいと雑踏を泳ぐ浮島と、なんとかついていく私。

< 20 / 37 >

この作品をシェア

pagetop