あの夏の夜の続きは今夜
「あの時も」と私は言った。

「別に私たちはそういうんじゃなかったじゃん」
「あの時って湘南で会った時?」
「そう、あの時はお互いあの空気に飲まれたっていうか」

浮島が私のことを横目で見て、何か言葉を選びあぐねるようにお猪口にのせた指を静かにタップする。

「でもまあ、無性に好きだったよね」

そう言って、「俺はね」と付け足した。

「いとちゃんは全然そんなつもりなかったのかもしれないけど」
「サルだなあと思った。本能だけで生きてるサル」
「それってさ、一番好きってことなんじゃないの、よく分かんないけど」
「性欲ってことでしょ」
「性、性だけかなあ、性も込みで俺はあの時いとちゃんの全部が欲しかった気がするよ」

そう言って私の目を捉えたその生気のない表情からは何も読み取れなくて、私は聞き流すふりをした。もう過去のことを今さら何か言っても、それが本当か、例え本当だとしても過去のことで。あの夏の夜に置いてきたんだ。
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