あの夏の夜の続きは今夜
ドアから吐き出されるように私たちは中野駅で降りる。

人混みに流されそうになる私を浮島が裾をツッと引っ張って、邪魔にならないところに寄せた。

足早に通り過ぎて行く人たちを逃してから、浮島が歩き始める。

「家近いの?」
「まあまあ、歩いて10分かからないかな」
「じゃあ送ってくわ」

そう言って浮島は私を見た。風がホームを通り抜けて行く。1日がもう終わる時間だ。

「嫌だったらいいけど」
「ううん、ありがとう」

私が目を逸らしたから、浮島も前を見て改札に向かう。

「そうやっていろんな男を部屋にあげてんじゃないの」
「人は選ぶよ」

そう言うと、浮島は突然立ち止まって「俺でいいんだ?」と笑った。

「ゆるゆるだな」と付け足して。

私はゆるゆるな女なんだろうか。軽い女なんだろうか。

確かにあの日、部屋にその日会ったばかりの男を呼んだ女だし。

「部屋に上がらないよね?」
「上がらないよ」

二人並んで歩く1時前のアーケード。まだ街は眠ってなくて、夜を終わらせないように、金曜日を粘ってる人たちが引き延ばしてる。

もうカレンダーでは土曜日なのに、みんなまだ新しい1日ではなくて、25時だって顔をして。

「ここの道ずっと行けば俺んち」

浮島が西の方を指差す。

「何かあったらここまっすぐ来ればいいのか」

ふんふんと彼は一人で呟いた。

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