あの夏の夜の続きは今夜
電車が中野駅に着いた。人の流れに乗って電車から降りると、私の最寄駅なのに浮島が私の手を引く。

「なんか涼しいね」なんて意味のないことを言って。

浮島の指の腹が私の手の甲の骨を撫でる。

「もうこんな時間なんだ」

腕時計を見て、日が変わりそうな時刻に笑う。

私たちは何でもない話をして、私のマンションの前に着いてしまう。

浮島が唇を噛んで、繋がれた手を見て、私を見る。

この町はまだ眠らない。

タクシーが忙しそうに通り過ぎていく。
楽しそうな人たちの声。
同じように花火大会帰りの浴衣姿。

頭を掻く浮島。
意を決したように口を開く。

「もう少し散歩しない?」

恥ずかしそうに頬に空気を入れて、凹ませる。

「いいけど別に」

私も何でもないフリをして答えると、浮島の目を見た。

なんとなく浮島が嬉しそうな顔をした気がした。

「じゃあ、ちょっと1周」

浮島の人差し指が宙に円を描く。

私は頷いた。

その散歩道の途中、浮島は「海に行きたいね」と言った。

私たちは8月に海に行く約束をして、マンション前で分かれた。
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