あの夏の夜の続きは今夜
ビーチボールの水色と白が6人の手をあっちこっち跳ねる。

浮島は私の隣に立ってこのゲームに参加していた。

「名前なんて言うの」
矢田衣都(やだいと)
「え?」
「矢田衣都」
「え?やだいと?」
「やだ・いと」

私は口を大袈裟に開きながら発音する。

「いとちゃん?」

彼は聞き返してきたから頷いた。

「いとちゃんって言うの?やべー可愛い」

そう言って彼は目尻に皺を寄せる。
彼の体は細いけど、かと言ってガリガリかと言うとそうでもなくて引き締まって鍛えられていた。

「いとちゃん、飲み物欲しくない?」

私はそれを言葉のままに受け取らず、誘いだと思った。

「ほしい」

水面に浮かぶように、漂うように、私が反射的に言うと、浮島は飛んできたボールを適当に打ち返した。

「ごめん、俺いとちゃんと飲み物買いに行くけど何かいる?」

浮島が声を張って言うと、みんな口々に応えた。

「オッケー、覚えてたらね」と浮島が笑う。そして「行こ」と軽く私の肘に手を当てた。

波が押し寄せない砂浜は熱くて、ビーチサンダルなしではとても歩けそうにない。
海の家は結構混んでいた。
太陽が照りつけてくる。

「いとちゃん、何歳?」
「18、今年19」
「え、タメだ」
「ウソ」

すぐ隣に立つ浮島を見上げる。
真っ青な空と空気の光がひたすらに眩しくて目を細める。

「何やってんの?学生?」
「うん、大学行ってる」
「頭いいんだな」
「そんなことないよ、そっちは?」
「俺?自衛隊」

言われてみれば、全員そんな雰囲気の集まりだった。

「っぽいね」
「そう?っぽいってどういうこと?」

飲み物の列が進む。

「男の子っぽいなって」
「女っけない?」
「女っけ?」

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