結婚当日に夫が浮気したから、ヤケになって愛人募集したら王弟殿下が志願してきた件。
 それでも愛を誓い合った夫を見間違えるはずもない。なめらかな金色の髪、切れ長の青い目に整った鼻梁。私の瞳に合わせた琥珀色のタキシードは、人がたくさん集まった中でもひときわ目立っていた。
 呼びかけた声に反応した彼は、相手の女性と唇を離したものの、その手はしっかりと彼女の腰を抱き寄せている。
「あぁ、イレーヌか。どうかしたのかい?」
 どうもこうもない。私たちは数時間前に永遠の愛を誓い合った仲だと思っていた。そして今まさに、集まった人たちに私たちの喜びをお披露目する場。
「そちらの女性はどなた?」
 感情を押し殺し、私はゆっくりと尋ねた。胸の奥で何かが軋むような痛みが走る。
「あぁ、イレーヌ。紹介しよう。こちらの女性はリンダ。僕の愛人だ」
 愛人。つまり愛する人と解釈して間違っていないだろうか。頭が混乱し、目の前の光景が現実なのかと疑ってしまう。
「そう……。でも今日、あなたは私と結婚をしたのよね?」
 声が震えそうになるのを必死に堪えた。
< 2 / 12 >

この作品をシェア

pagetop