悲劇のセイレーンにささやかな愛を



『緊張してない?』

「ん?あー、そりゃするけど。……手に人って書くやつならもう知ってる」

「……っ!」

「ちょ、っは⁉︎」



どうせ秋斗の受け売りで教えてくるんだろうと思い、不快感から思わず突き放すように言うと。

ムッとした彼女がいきなり、

抱きついてきた。

……抱きついてきた?



「いや、待っ、離れ……」

「がんばろ、しすい!」



思わず彼女の肩を掴もうとした途端、顔をぐっと近づけてきてそう囁いた。



「がんばれ」ではなく、「がんばろ」。



そうだ、俺は指揮者で、澪が伴奏者。

俺が引っ張っていかないと、澪はもちろんクラスメート全員が混乱してしまう。

今はいちいち悩んでいる場合じゃない。

後で思う存分悩ませてやるから。



「……ああ、がんばろうな」



俺は抱きついたまま見上げてきた彼女に、そう笑い返した。


< 100 / 123 >

この作品をシェア

pagetop