悲劇のセイレーンにささやかな愛を
『緊張してない?』
「ん?あー、そりゃするけど。……手に人って書くやつならもう知ってる」
「……っ!」
「ちょ、っは⁉︎」
どうせ秋斗の受け売りで教えてくるんだろうと思い、不快感から思わず突き放すように言うと。
ムッとした彼女がいきなり、
抱きついてきた。
……抱きついてきた?
「いや、待っ、離れ……」
「がんばろ、しすい!」
思わず彼女の肩を掴もうとした途端、顔をぐっと近づけてきてそう囁いた。
「がんばれ」ではなく、「がんばろ」。
そうだ、俺は指揮者で、澪が伴奏者。
俺が引っ張っていかないと、澪はもちろんクラスメート全員が混乱してしまう。
今はいちいち悩んでいる場合じゃない。
後で思う存分悩ませてやるから。
「……ああ、がんばろうな」
俺は抱きついたまま見上げてきた彼女に、そう笑い返した。