悲劇のセイレーンにささやかな愛を
【秋斗 side】
人を好きになって、追いかけて、気持ちを伝える。
淡々とした一連の動作。
そうとしか考えてなかった。
今まで俺はそうされる側だったから分からなかったんだ。
そんな、簡単じゃないんだと。
単純でもないんだと。
サイン・コサイン・タンジェントなんかよりも、ずっとずっとずっと。
「むずいな……」
「?」
隣にいる彼女を落とすのは、思っていたよりも容易ではなかった。
彼女──澪ちゃんのことが頭から離れなくなって。
そのすぐ後に行った花火大会で好きだと自覚して。
廊下で紫水に宣戦布告してから。
ビジュアルや優しさ、シチュエーション。
俺が知っているありったけの方法でアタックしたけど。
澪ちゃんはいつも天真爛漫に笑って、『ありがとう』とノートに書くだけで。
まるで全くと言っていいほど、響いている気がしなかった。