悲劇のセイレーンにささやかな愛を
打ち上がる10分前になると、バカップル二人は人があまりいないところへと移動して行った。
澪が振り向き、口を開いたのを手で制する。
「じゃ、俺も別の所行ってくるから」
「……っ、?」
「いいじゃん、秋斗と楽しめよ」
「おい、紫水……」
「澪、絶対に迷子にはなるなよ」
彼女をできるだけ見ないようにしながら、俺は歩き出した。
澪も秋斗といる方が楽しめるだろうし。
そう、これは澪のためだ。
自分に言い聞かせながら人混みの中に足を踏み入れた、その時だった。
「っ、わ」
「……っ、……っ」
「は……澪⁉︎ なんで、ちょ……っ」
俺の浴衣の袖を掴んで引き留めた彼女は、一瞬俺を見上げて睨んだかと思うとそのまま走り出した。