悲劇のセイレーンにささやかな愛を



「澪、いけるか?」



俺は指揮台に立ち、ピアノに手を置いて構える澪に声をかけた。

……そう、伴奏者は澪。

なんと、ピアノ歴は5年以上。

最近は彼女の部屋に置いたアップライトピアノで熱心に練習している。


コクッ、と頷いた彼女を見て、腕を振り始めた。

クラスで合わせるのは初めてだ。

でも同居しているから、澪と合わせるのには大分慣れている。


彼女が指を下ろした途端、周囲の空気が変わったような気がした。

クラスメートは思わず澪の方をチラチラと見ている。



「……え?」

「やばい、綺麗……」

「ピアノも天使とか最強かよ」



適度な緩急がつき、強弱もしっかりとしている澪の前奏は、一音一音が丁寧で。

そう、まるで。



「水流園さんが歌っているみたい……」



彼女の心の歌が、クラスメート全員に響いた。


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