本好き地味令嬢は、自由を満喫していますので。~今さら助けてくれと言われても、二度と家には戻りません!~
 けれど、こんな華やかな場に居合わせるだけで楽しい。リティスが変わったのは、間違いなく彼のおかげだ。

(……だからと言って、何ができるというわけでもないけれど)

 この気持ちは、リティス一人が抱きしめていればいい。

 いずれ正式に、伯爵家からは籍を抜くことになるだろう。貴族の娘のままだったとしても、アザレウスの隣に立つには身分が足りない。

「……リティス嬢」

「はい、殿下」

 思いを振り払おうとしていたら、すっと目の前に手が差し出された。

「殿下?」

「リティス嬢、一曲踊ってもらえませんか」

「一曲? 私とですか?」

 アザレウスが、リティスにダンスを申し込むことがあるなんて、考えてもいなかった

(どうしよう、どうしよう、どうしよう……!)

 この手を、取ってしまってもいいのだろうか。

『馬鹿ねえ、マナーの復習だけで許されると思っているの? ダンスの復習も必要に決まっているじゃない』

 マナーの復習に付き合ってもらえないかと頼んだ時の同僚の顔を思い出した。

 彼女の言葉が、本当になるなんて。

「私で……いいんですか?」

「リティス嬢がいい」

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