愛のち晴れ 海上自衛官の一途愛が雨女を幸せにするまで
 

「重光さん、雨が降り始めました」

 私はドアにクローズの札をかけてから重光さんに報告した。
 雨の日は、どうしても客足が遠のいてしまう。
 私の報告を受けた重光さんは、「あ〜」と残念そうにぼやいて腕を組んだ。

「まぁ、仕方ないな〜。今日は夜の仕込みの量を減らすか」

 ところがそれを聞いた水瀬さんが、窓の外を見ながら即座に断言した。

「いや、これは一過性の雨だから、あと十数分でやむと思う」

 空を見る横顔は雲の流れを読み切っているようで、私は思わず感心してしまった。

「すごい、水瀬さんはそんなことまでわかるんですね」
「いや、職業病で……休みの日も、つい天気図を確認してしまうんだ」

 船が安全に航海するために、気象予測は欠かせないから。
 そう続けた水瀬さんは、眉尻を下げて苦笑した。

「って、休みの日まで天気図を見てるとか引くよな」
「そんなことないです! むしろ、それだけ真剣に仕事に取り組んでるんだって、信頼できます」

 すかさず否定した私は、水瀬さんを真っすぐに見上げた。
 日々の訓練や業務をこなすだけでも大変なはずなのに、休日まで職務を忘れないなんて尊敬する。

「水瀬さんのような人が、国を守るために働いてくれてるんだって思ったら、安心しました」

 それは自然と口からこぼれた本音だった。
 けれど私の言葉を聞いた水瀬さんは、驚いたように目を見開いたあと、黙り込んでしまった。
 もしかして、何か失礼なことを言ったかな?

「あの、水瀬さん?」

 不安になった私は、水瀬さんの綺麗な顔をそっと覗き込んだ。
 すると水瀬さんは目をそらし、何かを隠すように口元に手を当てた。

「なんだ航、照れてんのか?」

 ツッコんだのは、重光さんだ。水瀬さんが照れているって、どういうことだろう。
 私は意味がわからず、首をかしげてしまった。
 対する水瀬さんは重光さんをじろりと睨み、かわいらしい注文をした。

「……重光さん、オムライスのライス多めでよろしく」

 重光さんは笑って「はいはい」と答えたあと、キッチンに戻っていく。
 どうやらラストオーダーとは関係なく、水瀬さんには食事を提供するみたい。
 ホールに残された私たちの間には、なんともいえない空気が流れた。

 
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