愛のち晴れ 海上自衛官の一途愛が雨女を幸せにするまで
 

「スマホ、いつ修理に出すんだ?」

 しばらくの沈黙のあと、口を開いたのは水瀬さんだった。 

「あ……そのうち行こうかなって思ってます。今は祥子さんが休んでてお店も忙しいし、それに……」

 休みの日や空き時間は、できれば漫画に費やしたい。
 そうなると、スマホの修理はどうしても優先順位が下がってしまう。
 もちろん、後回しにしたからといって、漫画のアイデアが都合よく降ってくるわけでもないのだけれど。

「と、とにかく、近いうちに行くつもりです」

 私は、笑ってやり過ごそうとした。
 ところが水瀬さんは、「そうか……」とつぶやいたあと、何かを考え込むように口元に手を当てた。
 どうしたんだろう。不思議に思って見ていたら、不意に視線を上げた彼と目が合って、胸の鼓動が小さく跳ねる。

「じつは今日ここに来たのは、重光さんの欲しいものを探るためだったんだ」
「え?」
「重光さん、もうすぐ誕生日だろ? 還暦だし、プレゼントを贈りたいと思ってさ」

 唐突に話題を変えた彼は、キッチンのほうを気にしながら声を潜めた。
 続けて小さく息を吐き、改めて私のことを見ながら言葉を続ける。

「でも、重光さんって勘が鋭いし、欲しいものを聞き出すのは難しそうだから……。よければ次の休日に、プレゼント選びを手伝ってくれないかな?」
「私が、ですか?」

 驚いて聞き返すと、彼はこくりと頷いた。

「ここで働いている君のほうが、俺よりも今の重光さんの好みをわかってるだろ」

 だから次の休みに、一緒にプレゼントを買いに行こうというわけだ。
 状況を整理して理解したら、動揺が一気に胸に押し寄せた。

「え、えっと」

 どうしよう。もちろん協力してあげたいし、私も誕生日に間に合うように、プレゼントを買いに行こうとは考えていた。

「嫌だったら断ってくれて構わない。すべて、俺の勝手な都合だし」

 私は加速しかけた鼓動を落ち着かせるように、自身の胸に手を当てた。
 嫌なわけではない。次の休日は家にこもって一日中、漫画を描こうと思っていた。
 だけどそれを、彼にどう説明したらいいんだろう。

 
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