愛のち晴れ 海上自衛官の一途愛が雨女を幸せにするまで
「今の階級は、たしか一等海尉だろ?」
「全部、うちの親父情報?」
「そうそう。この間、飲みに来てな〜。でもあいつ、お前がそこの基地配属になったことは言わなかったな!」
「それ、俺が重光さんを驚かせたいから黙っててって、親父に頼んだんだよ」
言いながら水瀬さんは少年のような笑みを浮かべた。
水瀬さんって、気を許している相手にはこんなふうに笑うんだ。
スマホの一件では真面目で誠実な人だと思ったけれど、飾り気のない笑顔を見たら胸が小さく音を立てた。
「念願だった気象予報士の資格も取れたし、ちゃんと自分の口から重光さんに報告したくてさ」
「気象予報士の資格を取るのは、かなり難しいんだろ?」
「まぁ、うん。合格率は、大体五パーセント前後って言われてる」
そんな難関試験に合格するなんて、確かな知識と強い意志がなければ無理だろう。
さらに水瀬さんは幹部自衛官として、艦内での指揮を担当することも多いとのこと。
自衛隊内での学会やシンポジウムに参加し、専門的な研究成果を発表することもあるのだと話してくれた。
「やりがいのある仕事を任せてもらえるのはありがたいよ」
「まさに、気象海洋員としての専門性を高めた、護衛艦気象部門のリーダー的存在……って感じか〜」
重光さんはそう言うと、自分のことのように誇らしげに胸を張った。
対する水瀬さんは、今度は困ったようにほほ笑みながら謙遜する。
「上には上がいるから、俺はまだまだだけど」
防衛大出の幹部自衛官──つまり水瀬さんは、自衛官の中でもひときわ優秀なエリートというわけだ。
自衛隊に詳しくない私でも、それくらいはわかる。
難しい気象予報士の試験にも合格するほどの実力者となれば、上官からも一目置かれているに違いない。
……すごいなぁ。私からすると、手の届かない、雲の上にいるような存在だ。
「陽花ちゃん、お勘定お願い~」
ふたりの話が一段落したタイミングで、店内に残っていた常連さんが席を立った。
「ありがとうございました。またよろしくお願いします」
再会を喜ぶふたりに水を差さないように常連さんを見送ったあと、私は外に出していたスタンド式のA型看板を店内にしまった。
「あ……」
そのときだ。アスファルトに、黒いシミがぽつぽつと広がり始めていることに気がついた。
見上げると、空には雨雲が立ち込めている。