わななく羽
肩甲骨を最初に「天使の羽」と表現したのは誰なのだろう。
突起をつかむ彼の背中には、たしかにくっきりとした天使の羽が浮き上がっていた。(彫刻のように)

(まぁ、
性格はまったく天使ではないけどね)
私は腕組みをして深くため息をつく。今日、彼と私はオフで、
かねてからやってみたいと彼が言っていた
「ボルダリング」に来ていた。

ボルダリングは斜面についた色とりどりの突起(ホールド)をつかんだり足場にしたりして上に登るスポーツだ。『S』と書かれた突起からはじまり、フィニッシュするには『G』と言う突起を両手でつかむ。
同じ色や形の突起を選んで登ったり、タイムを競ったりと色々なプレーの方法はあるが、
彼は初心者なので、ジムのトレーナーに着いてようやっと先ほど本格的に登りはじめたばかりだった。

私は着地マットの外から彼の登りっぷりを観察する。6月も下旬になり、
空梅雨が続いて毎日暑く、いつもは長そでを好む彼もとうとうたまりかねたのか、最近やっと半そでを着はじめた。
薄いブルーのTシャツ。有名なスポーツブランドのものだ。黒のスポーツ用トラックパンツ、
白地に青のラインが2本入ったいボルダリング専用のシューズ。これはジムからの借り物だ。
スーツをまとうとただ縦に長い細身に見えるのに、私服になると肩や上腕、太ももに筋肉がしっかりついているのがわかる。
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