【書籍化】貧乏家族の転生幼女は待望の水魔法の使い手でした~愛する家族とともに枯れた領地を潤します!〜


 私、レオナ・グライスナーには秘密がある。

 それは、前世の記憶をもって生まれてきたということだ。


 前世での私は、日本という比較的平和な国で生活していた。
 貧乏家の次女だったが、死ぬ気で勉強し、日本でも有数の大学に入学することができた。

 努力の末ようやく手にした夢の大学生活は、新しいことの連続で、それでいて穏やかな日々だった。
 気の合う友達とカフェめぐりをしたり、アルバイト先の同僚と温泉旅行に行ったり。
 何気ない普通の毎日に幸せを感じていた。


 ところが、そんな幸せな日々はすぐに終わりを告げた。


 元々口下手であったことが災いし、就活で大苦戦。
 やっと内定をもらった会社は、残業の多いブラック企業だという噂だったけれど、選ぶ余地もなく入社した。

 だけど、火のない所に煙は立たぬとはよく言ったもので、入社早々から大量のタスクを押しつけられ残業漬けの毎日。
 まさに地獄みたいな日々だった。


 そんな私の唯一の癒やし。それは《お風呂》だった。
 
 仕事から疲れて自宅に帰ってきたら、すぐに浴槽に熱いお湯をためて、温かいお風呂にゆっくり浸かる。
 特別な日には、シュワシュワと泡が出るゆずの香りの入浴剤を入れて疲れを癒やす。至福の一時だった。

 なのに! このグライスナー領では、どうやらお湯に浸かるという文化が無いようなのだ。

 それもそのはず。この地で最も大切にされているもの、それは《水》。
 雨量の少ないグライスナー領では、地下に掘られた井戸を頼りに生きているが、それすらも限られた資源だ。

 水は貴重な財産であり、無駄に使うことは許されない。
 それを身体を清めるためだけに使うなんてもってのほか。故に、入浴という発想すらないのだ。
 
 これは困った。幼女として異世界転生。それも辺境の地に。
 この条件だけでも過酷なのに、さらにはお風呂がないなんて。

 唯一の癒やしが無い中で、私はこれからどうやって生き抜けばいいんだろう。

 いや、入浴禁止の生活なんて考えられない。絶対に、今世でも毎日湯船に浸かりたい!
 

 そのためなら、どんな努力だって……!
< 2 / 20 >

この作品をシェア

pagetop