フィクションですよね⁉︎〜妄想女子の初恋事情〜
会社の王子さまと名高い伊東は、実は人知れず報われない恋をしてる。
 
相手は幼い頃からずっと隣にいた幼馴染。いつもふたりは一緒だった。けれど大人になった今、彼女には将来を約束した恋人がいる……。

彼女の幸せを一番に願い、自分の想いは胸に閉じ込める決意をした伊東。
 
——あいつが幸せなら、俺はそれでいい。 
けれど、新しい恋には踏み切れずに……。

「くっだらねー、釣り合うとでも思ってんのかよ、バーカ!」
 
突然耳に飛び込んできた衝撃に、楓の妄想はパチンと弾け現実世界へ戻ってくる。
 
え? 今のなに?
 
一瞬誰の言葉なのかがわからなくて、キョロキョロと辺りを見回した。
 
ここには楓以外はひとりしかいないのだけど。
 
だけどだけど、まさか伊東が……?
 
と思う視線の先で。

「何度も時間取らせんな。二度と話しかけんなよ」
 
彼は女性から受け取った小さ紙をビリビリ破り、ゴミ捨て場に置いてあるゴミ袋に、憎々しげにぎゅうぎゅうとねじ込んだ。
その横顔は心底忌々しげで、いつものにこやかなか彼とは別人のよう。そしてそのまま彼はくるりと背を向けて、コツコツと靴音を響かせて去っていった。
 
な、なに今の……。
 
自分の目と耳が信じられなかった。
 
けれど一方で、やっぱりという気持ちでもあった。
 
彼に対する第一印象を思い出したからだ。あの時彼に抱いた感想は、間違えていなかったのだ。
 
人間は多面的な生き物だ。同じ人間が周囲に与える印象がひとつということはあまりない。

〝優しい人〟は〝頼りない人〟にもなり得るし、〝強い人〟を〝横暴だ〟と言う者もいるだろう。
 
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