フィクションですよね⁉︎〜妄想女子の初恋事情〜
「伊東さん、何度もすみません。これ……どうしても受け取っていただきたくて」
 
女性が小さな紙を差し出している。名刺くらいの大きさだ。

「ごめんね。プライベートの連絡先は受け取らないことにしてるから。今は仕事に集中したくて」
 
申し訳なさそうに、でもキッパリと伊東は女性からの申し出を断っている。
 
紙には彼女の個人的な連絡先が書かれているのだろう。

「そ、それは知ってます……。伊東さんが、こういうの、すべて断ってるっていうのは有名ですから。でも私、諦められなくて。これで最後にします。受け取るだけ受け取っていただいたら、連絡はいりませんから」
 
つまりこれは告白だ。
 
会社でこんなこと本当にあるんだ……さすがは営業部の王子さま。
 
感心しつつ耳をダンボにして息を潜めた。

「本当に、本当に期待はしませんから」
 
女性からの切実なお願いに、伊東は困ったように微笑んで紙を受け取った。

「気持ちは嬉しいよ、ありがとう」

「こちらこそ、無理を言ってすみません。ありがとうございました。スッキリしました。あの、これからもお仕事頑張ってください。私、応援してます」
 
ぺこりと頭を下げて女性の方は帰っていった。
 
伊東はというと、すぐには立ち去らずに留まったまま、なにやら物憂げな表情を浮かべ深いため息をついた。
 
彼女の好意を受け取れないことに、罪悪感を抱いているのだろうか。
それにしてもどうして彼は、誰からも連絡先を受け取らないのだろう?

こんなに引く手数多なのに……などと考えているうちに、楓の頭に、もわんもわんと妄想が膨らんでいく。
もちろん脚本は、楓。
 
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