フィクションですよね⁉︎〜妄想女子の初恋事情〜
「いや、謝らなくていい。楓の場合は、予想外なのが予想通りだから」
 
笑いながら謎かけのようことを言う伊東は、楓の発言をまったく気にしていないように見えて、楓は肩の力を抜いた。

「それより、腹減ってない? ランチの準備をしてあるんだけど」

「ああ、そうでした。減ってます。ペコペコです。そういえばいい匂いがする……あ、そうだ」
 
思い出して、楓は手にしていた手土産の紙袋を彼に差し出した。

「本日はお招きくださりありがとうございます。これ、お納めくださいませ」

「お納めくださいって、悪代官かよ。どうも……これケーキ?」
 
人の家に招かれることがあまりない楓はまたもや変なことを言ってしまうが、彼は軽く突っ込むのみで、さほど気にせずに受け取る。
 
本当に彼の前ではあれこれ考えながら話さなくていいのが嬉しかった。

「はい、ここのケーキすごくデコレーションが可愛くて美味しいので」

「じゃあ、食事の後に食べようか」
 
他の荷物をソファへ置くように促して、伊東はダイニングテーブルでケーキの包みを開けてふっと笑う。

「ひとりふたつ?」
 
ケーキが四つ並んでいることに対する感想だ。こういう場合、手土産はその場で食べることが多いのだから、人数分にするべきだったかもしれない。

「うう、選べなくて。ひとつずつ食べて、残りは伊東さん、後でどうぞ」

伊東がははっと笑った。

「いや俺ひとり暮らしだし。あとでひとりで食べるのはさすがに。うまそうだし、楓ならいけるだろ?」

「いけると思います」
 
微笑み合うと、完全に緊張が解けていく。
 
ドキドキするのは相変わらずだけど、彼ならば大丈夫、変なことを言ってはいけないというプレッシャーのようなものはなくなった。
 
やっぱり恋愛体験の続きを彼に頼んで正解だ。
 
彼の前ではそのままの自分でいてもいい。変なことをしてしまっても彼は楓を軽蔑したりはしない。軽く笑って受け止めてくれている。

「座ってて、準備するから」
 
キッチンへ向かう彼を見送り楓は改めて部屋の中を見回した。
 
リビングは隣の部屋と引き戸で繋がっていて、解放感を優先してか、引き戸は取り払ってある。
 
隣の部屋は、デスクとパソコンが置いてあって壁一面が作り付けの本棚になっていた。
 
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