フィクションですよね⁉︎〜妄想女子の初恋事情〜
経理関係の資格の本が並んでいたのも同じ理由なのだろう。
 
あれだけの営業成績を叩き出すだけでも大変なのに、他の部署の仕事も把握しようするなんて、並大抵のことではない。
 
いや、だからこそあの成績があるのか。
 
会社での完璧な伊東さんは作りものかもしれないけれど、それは誰にもできないような努力の上に成り立っている……。
 
そこで楓は疑問に思う。
 
それにしてもどうして彼はあれほどまでに、外面をとりつくろっているのだろう?
 
王子さまのような顔をしている方が都合がいいから?
 
口が悪いのが玉にきずと言えばそうかもしれないけれど。
 
でも普段の彼がひどいとは、もはやあまり思わなかった。女性の連絡先を捨てて暴言を吐いていたのだってしつこくされていたなら仕方ない。そもそもあれはひとり言だ。
 
楓がそれを暴露した直後、脅しかけていた時は、ひどいやつだと憤慨した。でもあれも、今となっては秘密を守るために大袈裟に高圧的なことを言っていたのだろうと理解できる。
 
力を抜いている時の自然体の彼は、全人類に好かれるキャラではないけれど、楓から見れば十分に魅力的。
 
彼の言動から考えると女性にモテたいからというわけでもなさそうなのに。

——それなのになぜ?

オレンジジュースを飲みながら、向かいの伊東を盗み見て、楓はもんもんと考えていた。

大きなテレビに、エンドロールが流れるのを見ながら、楓は満足感に満たされて息を吐いた。

「面白かった〜! やっぱり名作はいつまでも色褪せませんね」
 
ブラインドの向こう、窓の外は少し日が傾いている。

「本物に時代は関係ないんだよな。いつ観てもいいものはいい。流行りなんかくそくらえだ」
 
隣で伊東が熱く語る。
 
楓はふふふと笑った。

「映画評論家気取りですか」

「あいつらと一緒にするな。俺の方がよく知ってる」
 
伊東お手製の絶品ビーフシチューを堪能させてもらったあとは、手土産のケーキに突入した。
 
その可愛い見た目に、自分でも妄想タイム突入かと覚悟したが、意外にもそうならなかった。
 
こういうのを見たらどういう妄想が浮かぶのか、と伊東に聞かれ、それに答えているうちに、彼と会話が弾んだからだ。
 
とりとめのない楓の話を、彼は呆れたりすることもなく聞いていて、ときおりからかい混じりの質問が飛んでくる。それに冗談で言い返したりして楽しい時間を過ごした。
 
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