フィクションですよね⁉︎〜妄想女子の初恋事情〜
「外でもニコニコしてれば、喧嘩にもならないし問題は起きないだろ? そしたら母は子供のことに煩わされずに仕事に集中できる。……そのうちに、まわりからも期待されるようになって。優等生の伊東くん、みたいな。少しでもイメージと違うところを見ると大袈裟に騒ぐし、うるさいしうっとおしい」
少し自嘲気味に笑って楓を見た。
「だったらそれを演じてやるよ、ってやってるうちに、完璧にやれるようになったってわけ。今となってはそれが一番いいって思う。その方が平和だろ。本当の俺を知ったら、みんな幻滅するだろうし、なにもいいことはな……」
「そ、そんなことない!」
反射的に楓は彼の言葉を遮った。
自分がなにに反発しているのかわからないままに。
けれど、なにかを諦めたような彼の言葉に、違う、そうじゃないと強く思う。
それだけは確かだ。
「い、伊東さんは、幻滅なんかじゃありません 」
伊東が大きく目を見開いた。
「確かに私も、びっくりしたし、なにそれって思うところあったけど……でも、か、完璧な人なんていないし、中身が王子じゃなくてもそれは普通。それに伊東さんは、私の妄想癖を笑ったりしなかったし、恋愛のことも全然慣れてない私に優しくしてくれた。だから私、伊東さんのデートがすごく楽しかったんです」
胸が痛くて、喉の奥が熱くなった。
自分のことをそんな風に言わないでほしい。そう思う。
その一心で楓は膝に置いた手を握りしめた。
「妄想癖があるから人が離れていくのは、私が悪いんじゃないって、想像しててもいいって言ってくれたのは、家族以外では伊東さんだけでした。話を聞いてくれたのも……そもそもあの話、私は誰にもしたことなかった。黒歴史だし。それでも私が話をしたいと思ったのは素顔の伊東さん相手だからです。王子さまの伊東さんじゃなくて……私、私は今の伊東さんが好き! が、がっかりだなんて思いませんし、幻滅なんてしてません」
言い終えて、はあはあと肩で息をする楓を、伊東は啞然として見ていたが、ぐっとなにかを堪えるように顔を歪めた。
膝の上にポタリと雫がひとつ落ちて楓は自分が泣いていると気がついた。
「あれ? 私……なんで泣いてるんだろ」
慌ててそれを手で拭おうとした時。伸びてきた温かくて大きな手に、頬を包まれた。
え?っと思ってその手の先を辿ると、伊東が真っ直ぐにこちらを見つめていた。その視線が今までと違っているように思えて、頬が熱くなっていく。
なに? どうしたの?
そう思った瞬間に、眼差しがゆっくりと近づいてくる。
一瞬視界が暗くなって、かすめるようにそっと唇に触れた柔らかな感覚が、彼の唇だったと気がつくのに数秒遅れる。
目をパチパチパチパチと五十回ほど繰り返したのちに、声が出た。
「ほぇ⁉︎」
なにが起こったのか、わからなかった。
視覚からの情報がパニック状態の頭の中で、どうにかこうにか処理される。
キスされた?
起こった現象はわかったれど、どうしてそうなったのかがわからない。
なんでキス⁉︎
思考回路はショート寸前どころか完全に爆発切断し、頭の中は真っ白な状態に。手と足が勝手に動いて、近くに置いてあったカバンとコートを掴んで立ち上がる。
「わ、私……! もうお暇しなくては! 明日は妹が来るんだった!」
「明日……?」
尋ねる彼も少なからず動揺しているようだった。
「すみません、今日はありがとうございました! ご、ごちそうさまでした」
「楓? 待てって……!」
珍しく慌てて引き止める伊東の声を背中で聞いて 、楓は玄関を飛び出した。
少し自嘲気味に笑って楓を見た。
「だったらそれを演じてやるよ、ってやってるうちに、完璧にやれるようになったってわけ。今となってはそれが一番いいって思う。その方が平和だろ。本当の俺を知ったら、みんな幻滅するだろうし、なにもいいことはな……」
「そ、そんなことない!」
反射的に楓は彼の言葉を遮った。
自分がなにに反発しているのかわからないままに。
けれど、なにかを諦めたような彼の言葉に、違う、そうじゃないと強く思う。
それだけは確かだ。
「い、伊東さんは、幻滅なんかじゃありません 」
伊東が大きく目を見開いた。
「確かに私も、びっくりしたし、なにそれって思うところあったけど……でも、か、完璧な人なんていないし、中身が王子じゃなくてもそれは普通。それに伊東さんは、私の妄想癖を笑ったりしなかったし、恋愛のことも全然慣れてない私に優しくしてくれた。だから私、伊東さんのデートがすごく楽しかったんです」
胸が痛くて、喉の奥が熱くなった。
自分のことをそんな風に言わないでほしい。そう思う。
その一心で楓は膝に置いた手を握りしめた。
「妄想癖があるから人が離れていくのは、私が悪いんじゃないって、想像しててもいいって言ってくれたのは、家族以外では伊東さんだけでした。話を聞いてくれたのも……そもそもあの話、私は誰にもしたことなかった。黒歴史だし。それでも私が話をしたいと思ったのは素顔の伊東さん相手だからです。王子さまの伊東さんじゃなくて……私、私は今の伊東さんが好き! が、がっかりだなんて思いませんし、幻滅なんてしてません」
言い終えて、はあはあと肩で息をする楓を、伊東は啞然として見ていたが、ぐっとなにかを堪えるように顔を歪めた。
膝の上にポタリと雫がひとつ落ちて楓は自分が泣いていると気がついた。
「あれ? 私……なんで泣いてるんだろ」
慌ててそれを手で拭おうとした時。伸びてきた温かくて大きな手に、頬を包まれた。
え?っと思ってその手の先を辿ると、伊東が真っ直ぐにこちらを見つめていた。その視線が今までと違っているように思えて、頬が熱くなっていく。
なに? どうしたの?
そう思った瞬間に、眼差しがゆっくりと近づいてくる。
一瞬視界が暗くなって、かすめるようにそっと唇に触れた柔らかな感覚が、彼の唇だったと気がつくのに数秒遅れる。
目をパチパチパチパチと五十回ほど繰り返したのちに、声が出た。
「ほぇ⁉︎」
なにが起こったのか、わからなかった。
視覚からの情報がパニック状態の頭の中で、どうにかこうにか処理される。
キスされた?
起こった現象はわかったれど、どうしてそうなったのかがわからない。
なんでキス⁉︎
思考回路はショート寸前どころか完全に爆発切断し、頭の中は真っ白な状態に。手と足が勝手に動いて、近くに置いてあったカバンとコートを掴んで立ち上がる。
「わ、私……! もうお暇しなくては! 明日は妹が来るんだった!」
「明日……?」
尋ねる彼も少なからず動揺しているようだった。
「すみません、今日はありがとうございました! ご、ごちそうさまでした」
「楓? 待てって……!」
珍しく慌てて引き止める伊東の声を背中で聞いて 、楓は玄関を飛び出した。