フィクションですよね⁉︎〜妄想女子の初恋事情〜
「伊東さんは私の恩人みたいなものなのにそんなことできないよ。伊東さんのおかげで恋愛小説を書けるかもしれないんだよ? リアルがどれだけすごいかおしえてもらっておきながらそんなこと」

「いやいや恩人とか関係ないし 。デートのお礼にキスなんて旧石器時代かよ」

「おっお礼じゃないし。そんな理由でキスしたんじゃないし。だいたい、私のキスなんてお礼にもならな……」

「いやいや、お姉ちゃん自己評価低すぎ」
 
早苗がため息混じりに遮った。

「相手が国宝級イケメン だとしても、好きじゃない相手からのキスなんて、嫌なものは嫌って言っていいんだから。ね、やっぱり訴えよう!」
 
スマホを出してすぐにでもどこかに連絡しかねない早苗を再び楓は慌てて止める。

「い、嫌じゃなかった! 全然嫌じゃなかったから! ……って、あ、あれ?」
 
言ってから、楓はその事実を改めて確認した。
 
そう、びっくりしてわけがわからなくて、大混乱しているけれど嫌だったわけじゃない。

「ほーん?」
 
早苗が意味深な視線でこちらを見た。

「へーほーふーん、そうかそうか、嫌ではなかったんだ。それってつまりどういうこと?」

「へ⁉︎ どういうことって?」

「嫌じゃなかったならどんな風に感じたの? それだけパニックになってるなら、キスしましたけどなにか?みたいな、無の状態じゃなくてなにがしかの強い気持ちがお姉ちゃんの中にありそうだけど、嫌じゃないならそれっていったいどんな気持ち?」
 
なにか誘導尋問されてるみたいだな?と思いながら、楓は自分の気持ちを深掘りする。
 
胸に手をあてて一番に思ったことは。

「め、めちゃくちゃドキドキした。その時はなにが起こったのか……ちょっと記憶が飛んでるくらいなんだけど。今は、頭の中で、たくさんの花火が打ち上がってる感じ」

「なるほどね」
 
早苗がにやりと笑った。

「それって私のファーストキスの時と同じだね」

「ほ、ほんと⁉︎」

「ほんとほんと、まぁ私は、中一の時の話だけどね」

「じゃあこれはやっぱり恋のドキドキ……」
 
頬杖をついてニヤニヤする早苗を見た。

「やっぱり伊東さんってすごいよね⁉︎」

「ん? すごい?」

「すごいよ。だって擬似恋愛でここまで相手をドキドキさせられるなんて」
 
早苗がずるっと頬杖を外した。
「なに?」

「なにじゃないよ、お姉ちゃん。擬似恋愛って、そうじゃないでしょ」

「そうだよ、そういう企画だもん」

「はじまりはそうでもさー、今! ドキドキしてるのはお姉ちゃん自身でしょ?ってこと」

< 109 / 141 >

この作品をシェア

pagetop