フィクションですよね⁉︎〜妄想女子の初恋事情〜
「伊東さんだよ? 向こうこそそんなつもりじゃないって」

「じゃあなんでいきなりちゅーなのよ」

「わかんないけど。今日のデートだって私が頼み込んで実現したんだし、伊東さんは完全に親切心で私にお家デートとはなにかをおしえるために……てそうかわかった」
 
彼の行動の原理に思いあたり、楓はああ、と納得した。

「それだよ、恋人同士ならお家デートでキスくらいするでしょ、だからそれをおしえてくれたんじゃないかな。つまり、イベントのひとつとして」

「えーそうかなぁ」
 
今ひとつ納得できない様子で早苗は首を捻ったが、楓にはそうとしか思えなかった。
 
ほかでもない楓自身が、恋人同士のその先をおしえてほしいとお願いしたのだから。
 
まさかまさか、恋人同士のその先に、キキキキキスがあるなんて、楓にとっては予想外だが、女性との付き合いについては百戦錬磨の彼にとっては普通のことなのだろう。
 
だとしたら、なんてへんてこりんな反応をしてしまったのだろう。

「ああ〜」
 
頭を抱え突っ伏した。

「お姉ちゃん、大丈夫?」

「じゃないよ、どうしよう。私、ドキドキしすぎてパニックになってそのまま帰ってきたんだよ⁉︎ 絶対変な風に思ったよね? なんでもっと冷静に、おしえてくれてありがとうございますと言えなかったんだ」

「まぁ、さすがにそれは無理じゃない? 好きな人からいきなりキスされたら、誰だってパニくるよ」
 
同情されても慰めにはならなかった。

「絶対変に思ったよね。私の気持ち、バレたかも……」
 
自分でも気がついていなかったのに、先に相手にバレるなんて、間抜けすぎる状況だ。

「いや私からしたら王子の行動も謎だよ」
 
もはや早苗の言葉も耳に入らない。
 
最悪だ。
 
本当に好きになってしまうなんて、伊東からしたら迷惑以外のなにものでもない。
 
好きになるなよ?ってはじめに釘を刺されていたのに……。
 
きっと今頃呆れている。怒っているかもしれない。
 
あんなに親切にしてくれたのに……。
 
いずれにしても失恋は確定だ。
 
そのことに思いあたり、楓の気持ちは急降下した。さっきまで打ち上がっていた花火の光は、跡形もなく消えうせて、どんよりとした雲が立ち込める。
 
私って本当に、リアルには向いていないのかも。
 
初恋に気がついた瞬間に失恋するなんて。
 
ズキズキとした胸の痛みは、昼間に伊東が他の人と映画館に行く想像をした時と同じだった。

「でもさー好きじゃない相手とキスしたくないっていう気持ちは、男も女も関係ないと思うんだよね。だから王子もきっと……お姉ちゃん? お姉ちゃんってば大丈夫?」
 
あれこれと言う早苗の言葉も耳に入らず、項垂れる。
 
心の中は、どしゃぶりだった。
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