フィクションですよね⁉︎〜妄想女子の初恋事情〜
フィクション…じゃない!?

倫の後悔

「ほんっとうにすみませんでした! 伊東さんのおかげでなんとかなりました。ありがとうございました」
 
後輩が申し訳なさそうに謝っている。
 
ICカードをかざして改札を抜けながら、倫は穏やかな笑みを浮かべた。

「先方に納得してもらえてよかったよ」
 
取引先からの戻りだ。
 
後輩が担当している店舗とのやり取りで商材に関する細かいミスが続いていた。それに対する彼のフォローがうまくいかず、ついに契約破棄をちらつかされる事態に発展したのだ。
 
この件について倫はまったく関係ないが、以前の担当者が倫だった。大変気に入られていため、泣きつかれて謝罪に同行することになった。
 
先方は、久しぶりに会う倫に喜び、さらに倫の誠意ある謝罪になんとか溜飲を下げてくれた。やれやれと安堵して帰社しているところである。ホームに着いて電車を待つ間も彼はまだ申し訳なさそうに謝りっぱなしである。
 
もういいよ、人目があるからやめろ。謝るくらいならミスすんな。謝ることくらい誰にでもできるんだよ……といつものように頭の中で悪態をつきかけて、いや違うなと考える。
 
悪いことをしたら謝る、ただそれだけのことを自分はまだできていない。そのことに思いあたり自己嫌悪に陥った。
 
楓と家で会ったあの日から、四日が経った。
 
顔を真っ赤にしてあわあわとして嵐のように帰っていった楓に、倫はまだ謝れていないどころか、連絡を取ることすらできていない。

「もうそのくらいでいいよ、困った時はお互いさまだし」

「いや、でも本当に申し訳なくて」

「十分気持ちは伝わったから」
 
後輩の代わりに頭を下げる。よくあることとは言わないが、それほど珍しくもないことで、倫にとって大きな負担だったというほどでもない。
 
むしろ謝り続けられる方が負担だ。
 
もうこの件はこれっきりにしようと思いかけて、倫の頭にある疑問が浮かんだ。
 
彼は普段は優秀な後輩でこんな凡ミスを繰り返すタイプではない。たとえミスをしたとしてもうまくフォローできるような気がするのに。
 
どうかしたのだろうか?

「それより、なにかあったの? 調子悪いみたいだけど。普段はこんなミス連発しないよね。忙しすぎるなら僕からチームリーダーに言おうか?」
 
倫からの問いかけに、後輩が意外そうに瞬きをした。
 
倫がこんな風に突っ込んだ話をすることはあまりないからだ。
 
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