フィクションですよね⁉︎〜妄想女子の初恋事情〜
逃げるように帰ったあの日から今日にいたるまで、彼からの連絡は一度もない。
　
きっと、楓に呆れているのだろう。親切にしてやったのに、なんだあれはと怒ってるかもしれない。
　
もう二度とかかわらないと思われたとしても当然だ……。
　
もうあんな風に気楽に話をすることはないのだろうと思うと暗闇にひとり取り残されたように寂しかった。
　
気分を変えるための妄想力はまったく役に立たず、つらい気持ちに支配される。泣いてしまいそうになって楓は唇を噛んだ。
　
——だから現実の世界は嫌だった、妄想世界の中だけで生きていたかったのに。
　
弱気な自分が胸の中で呟いた。
　
フィクションの世界なら、好きな人との悲しいアクシデントも物語を盛り上げるためのスパイスでしかない。寂しい思いをしたとしても最後にはハッピーエンドが待っている。
　
けれどこれは現実だから、ただひたすら悲しくて虚しくて、救いがない。
　
それがわかっていたからこそリアルとは距離を置いていたのに。
　
この数日で、楓は自分がすっかりもとの自分に戻っていくのを感じていた。
　
伊東に手を引かれて無理やり知った現実の楽しさは、手が届かないものとなり、もっと体験したいという好奇心もすっかりしぼんでしまっている。
　
……けれど完全に元通りというわけではなくて、それが返ってつらかった。現実の恋を知った今は、妄想だけでは物足りない。それだけでは本当には満たされることはない……。
　
もう一度ため息をついて、無理やり気持ちを立て直し、楓は仕事に取りかかった。
　
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