フィクションですよね⁉︎〜妄想女子の初恋事情〜
あまりにも脈略のない展開に太田の妄想だろうかと疑う。あるいは倫をからかうための作り話か。
 
太田が照れたような頭をかいた。

「いや〜、よろしくお願いします! なんて言われたら張り切っちゃうよね」
 
よろしくお願いします?
 
飲みにいくのに? 
 
どういう状況だと訝しみ、しばらく考えたあと、ようやく楓の意図をさとった。
 
まさか……。
 
まだ小説を書くための恋愛体験を諦めていないというわけか。倫に頼めなくなったから、太田に頼んだのか?

——あのバカ!
 
自分がしたことは棚に上げて、倫は悪態をつく。
 
小説の続きを書きたいのはわかるけど、よりによってなんで太田。信用できない男、ウエムラ商会ナンバーワンだ。
 
楓は擬似恋愛のつもりでも太田の方はそうじゃない。下手するとこの前よりもひどいことになる。
 
だいたいなぜ太田に頼む流れになったんだ?
 
ファンだなんだと言いながら、直接話してはいないようだったのに。
 
黙り込む倫を太田がニヤニヤしながら覗きこんだ。

「やっぱり気になる?」

「ずいぶん急展開ですね。なにがあったんですか?」
 
もはや気にならないふりをする余裕はない。
 
言え、どうやってそんな話になったんだ。
 
太田がふふんと笑った。

「まぁ、いろいろとね」
 
もったいぶりやがってと、心の中で舌打ちをする。
 
どうやって吐かせようかと考える倫を横目に、肝心なところを濁したまま、太田はどうでもいいことをペラペラと話しだす。

「なにしろはじめてのデートだからさ。俺、とにかく張り切っちゃってるわけよ〜! そこの通りの先にさ、美味しい創作料理居酒屋があるから連れてってあげようと思って。本当はワインの美味しい店にしようかと——」

「アルコールはダメですよ」
 
思わず口を挟むと、太田がニヤリと笑った。

「まぁそれは、この次でもいいかなと思って」
 
どこまで本気かわからないが、倫の反応を楽しんでいるのも確かだろう。
 
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